ホーム > お客様の声 > vol.19 「奏(かなで)の家」 施主、設計士、工務店、職人。それぞれの想いと信頼が生んだ家づくり

vol.19

「奏(かなで)の家」

施主、設計士、工務店、職人。
それぞれの想いと信頼が生んだ家づくり

相模原市緑区(旧藤野町)/ハイザー様邸

これまで、たくさんのお客様の声をお届けしてきたこのコーナー。今回は特別編として、2015年4月に竣工した「奏の家」の施主、ハイザー夫妻と、創和建設の自然住宅を多数手がける建築設計士の池辺潤一さんにお話を伺いました。ご夫妻や池辺さんはもちろん、現場監督や職人さんまで、誰もが「大変だったけど楽しかった」と口を揃えたハイザー邸の家づくり。いい家とは何かを考えさせられるその物語を、いつもより、少し長めにお伝えします。

初めて藤野にきた日に、シンガポールからの移住を決意

旧藤野町の名倉地区。深い森へと続く砂利道を進み、思わず深呼吸したくなった先に、何軒かの家が建つ小さな集落が現れます。その高台に位置するのが、今回ご紹介するハイザー邸です。広々とした敷地は正面に山々の絶景を、背後に森を携え、まさに理想の山暮らしとでもいった雰囲気です。

結婚される前に世界中を旅したあと、たまたまシンガポールで仕事が見つかって15年間も暮らすことになったというハイザーさん。しかし、シンガポールが終の住処だという感覚はなく、いつかは自分たちに合った土地に移り住みたいと、世界中で、どこかいい場所はないか探しまわっていました。そうして見つけたのが、ここ。日本の小さな里山のまち、藤野だったのです。

ウェス・ハイザー(以下、ウェス):住む場所を探している中で、藤野にあるシュタイナー学園を友だちに勧められました。見にきたら、芸術作品がまちの中にあったり、地元の人と話してもみんな考え方が自由だったり。あんまり日本っていう感じじゃないですね、藤野って。まちの環境も自然も、僕と奥さんにすごく合っていると思いました。しかも子どものために、バイリンガルなシュタイナー学園もある。すべてのきっかけが合わさって、すぐにシンガポールから藤野に引っ越そうと決めたんです。

池辺潤一(以下、池辺):ウェスは決めたら早いんです。

ウェス:初めて藤野にきた日には決めていました。シンガポールにあと何年かいる意味がない、そう思えたぐらい、すっごくしっくりきたんですね。その日から、じゃあどうやってシンガポールの家を売って、仕事を辞めて、猫も子どもも連れてこられるのかを計画しました。結果、仕事を辞めるのは簡単で、猫を連れてくるのがいちばん大変でした(笑)。

全員笑

いつのまにか理想の土地を手に入れていた

吹き抜けの天井は開放感があります。

——土地はすぐに見つかったんですか?

ウェス:人生にすごく合うと思えることがあると、すべての作業は大変なところがあっても、順調に進んでいきます。今回も、すごくタイミングがよくて、日本に2014年3月に引っ越してきて、3ヶ月後にはこの土地が見つかったんです。交渉を7月中に終わらせて、いろいろと問題が解決できたのが11月ごろ。そこでやっと建築許可が取れました。

——それじゃあ、シンガポールから藤野にきて半年ちょっとで家づくりに取りかかれたということですね。それはスムーズでしたね。

ウェス:しかもここは、僕の夢のとおりの土地だったんですよ。僕は将来、近くに遊歩道が通っている山での暮らしがしたいと思っていました。でもそんなところは、アメリカの西海岸の山の中しかないっていう話をしていたの。そうしたら、あとからわかったんだけど、この土地のいちばん上に、遊歩道が通ってるんですよ。

—すごいですね! 気づかないうちに理想の土地を手に入れていたと。

池辺:僕もすぐそこに遊歩道があるなんてこと知らなくて。ウェスの土地になるから誰も人が入らないと思って脱衣室にガーンとでかい窓つけちゃった。あとから「え、遊歩道あるの? 丸見えじゃん」って(笑)。

ウェス:あ、そうなの? 知らなかった(笑)。

まさみ・ハイザー(以下、まさみ):そうだったんだ(笑)。

全員笑

この土地に適した種が植えられて、幸せな芽が出た

——この家のコンセプトやテーマはありましたか?

ウェス:私たちにはテーマはありませんでした。ただ、今まで住んでいた家の、生活に便利だったところを全部入れたいということは言いました。まず、家の中心に薪ストーブ。キッチンの中にパントリーがあること。アイランドにはシンクじゃなくてストーブをつけたい。オフィスは、海外とのやり取りで夜の仕事が入るかもしれないから、囲まれてる場所。で、寝室はできるだけ繋がりがあってオープンにしたい。これが基本でした。

——具体的なプランをもっていたんですね。

ウェス:それと池辺さんが設計図を作る前に、私たちがシンガポールから何をもってきたのかを調べにきたんです。友だちのアーティストのでっかい絵とか、重たいインドネシアの鏡とかね。シンガポールから、わざわざ捨てないで日本まで運んでくるものは、僕たちにとって大事なものだっていう考えをもってたんですね。

池辺:ウェスたちの想いとか暮らし方が、すごく明確だったの。その要素のひとつにシンガポールからもってきたものっていうのがあった。僕は最初にそれを全部知りたかったし、見たかったんです。あと、ここってすごくいい土地ですよね。じつはウェスの前にも、いろいろな人がここに建てたいっていう相談にきていました。でも、いろいろな事情でなかなかそれが叶わなかった。そこにようやく家を建てられる人が現れたっていうことが、僕にとっては感慨深くて。この場所に適した種が植えられた、そういう感じがしたんです。じゃあ、その種はいったいどういう花を咲かせるんだろう、どういう家が建つんだろうっていうことをイメージする作業は、ものすごく楽しかったですね。

ウェス:池辺さんが私たちに最初に説明したのは、この土地と、シンガポールからもってきたものと、僕が初心者なりにコンピュータソフトで作った設計図を合わせて、東南アジアのリゾートをつくりたいっていうことでした。

池辺:そう。しかも、1回プランを作ってみせた時の反応がすごく良かったの。「すごくいいね!」って言ってくれて、僕もテンション上がって「そうだよね、いいよね! これ!」っていうね(笑)。なんか、種が植えられて、幸せな芽が出た感じ。家ができたときに思ったのは、本当に気もちよく、健やかに花が開いたなと。

ドアは古民家の扉に地元の芸術家がデザインしました。

信頼関係を築くことの大切さ

——最初の反応がすごく良かったということでしたけど、イメージどおりの設計が出てきたんですか?

まさみ:イメージ以上だったよね。

ウェス:そう。ここまで期待してませんでした。

池辺:(笑)

ウェス:で、家ができあがっていくうちに、なるほど、池辺さんはここまで考えて形をつくってくれてたんだ、って思いました。やっぱり池辺さんはすごいなと。

——プロの仕事ですね。

ウェス:だから、信頼してお任せしたところもあります。たとえば壁の色はどうしますかって聴かれて「うーん、この色がいいかなぁ」って言うとね、「いや、その色は違います」って言われるの(笑)。「どうしてこれは違うんですか?」って聞いてみても「ちょっと僕が思ったのと違う」としか言わないから「わかりました。じゃあお任せします」って(笑)。

池辺:言葉にするとずれていっちゃうことってあるんですよ(笑)。信頼関係が築けていると思えたから、無理矢理言葉にせずに「僕、このほうがいいと思うんだよね」って言って、受け入れてもらった。

——確かに、そこでお任せできたのは、信頼しあっているからこそですね。

池辺:建物を建てるってすごく大掛かりなことで、設計図だけでは全部のイメージはできません。大きなお金を払って建てるわけだから、その責任はすごく感じる。でも大事なところほどうまく伝えられないんです。そこは信頼して任せてもらって、僕は努力して家族からいろいろな要素を引き出していく。そこにいいものをつくりたいっていう僕の想いもミックスすると、できたものがやっぱりすごくいいんです。

ウェス監督率いる家づくりチームが誕生!?

——家づくりは楽しんでやれましたか?

ウェス:楽しかったね。いちばん良かったのは、毎週の現場の会議に入れてもらったこと。それまでは、何かあったら池辺さんに話して、そこから現場監督に話がいって、さらに職人さんにっていう流れだったのが、直接話ができるようになってすべてが早くなったんですよ。それに、みんなからの信頼度もちょっと高くなった。

池辺:いろいろな施主さんがいるから、一概に会議に入ってもらうことがいいことだとは言えないんだけれど、今回は入ってもらってよかったと思います。本当にチームみたいになれたから。

ウェス:僕はほぼ毎日、8時間から10時間ぐらい現場にいました。そのおかげで、働いてるみんなの間に組織的な壁がまったくなくなって、それぞれ信頼しあって動けたから、すごく良かったですね。

まさみ:大工さんがやってる横で、同時進行で、薪置場をつくったりしてましたね。

池辺:職人さんは「ウェス監督」って呼んでました。

全員笑

まさみ:大工さんにコーヒー淹れてもらったりもしてたよね(笑)。ウェスは休むっていう感覚がないから、仕事をし出すともうずーっとやってるんです。見かねた大工さんが「そろそろ休憩したら?」って言いながらコーヒー淹れてくれるっていう(笑)。

—本当にいいチームだったんですね。

池辺:そうだね。その空気感が建物にも現れたと思う。図面で書いたものを現場でチェックしたら、そうそう、こういうふうになるよねっていう感じなんです。でも、物理的な形じゃない“空間の質”みたいなものって、できあがって初めて「こうなったかぁ!」ってわかることがあるんです。それはたぶん、施主の想いとか、職人さんとの信頼関係とか、職人さんが施主さんの心意気を感じてくれていたとか、そういうものがつくり上げる空気感。どれだけみんなが楽しめて、家をつくることに対しての意欲が集まったか、みたいな。

—みんなが楽しかったんでしょうね。だから雰囲気が良かった。

池辺:何か言うと、じゃあこうしませんか、これどうですかって言葉が返ってくる現場だったから、すごく楽しかった。猫用のドアとかも、あんなの、僕は図面に書いてないからね。職人さんに「ここがジャラジャラジャラってなったら良くないですか」ってちらっと言ったら、いつのまにかできてた(笑)。

ウェス:やってる最中は何も文句言わなかったけど、できあがってから「あの猫ドアめんどくさかったぁ〜!!」って言われました(笑)。

全員笑

くるものを受け入れ、大きな流れに身を任せる

—お話を聞いていると、この家はいろいろな人のいい家をつくりたいっていう想いが集まってできあがったんだなぁっていう感じがしますね。家づくりも、そういう想いが大事なんですね。

まさみ:私たち3人とも、こだわりを捨てるというか、このとおりにいかなくちゃいけないっていう考えを捨ててつくったような家ですね。

池辺:うんうん。

まさみ:大きなものに動かされて、くるものを受け入れながら、いい意味で流れに任せてつくっちゃったところがあって。いろいろ問題はあったのに、誰も焦らなかったんですよ。設計なんて土地が買える前から始めちゃってたし、シンガポールの家が売れないとお金がないっていう事情もあったのに、まぁなんかうまくいくんじゃない? みたいな感じで(笑)。

池辺:確かにそんな感じはあったね。信頼しているというよりも、流れを感じる、みたいな感覚だったかもしれない。

——どうですか。実際に住み始めてからは。

ウェス:もう毎日幸せ。毎秒毎秒。「ここいいねぇ〜!」ってずっと言ってる。

まさみ:住み始めると、ここをこうすれば良かったっていうことがあるって聞いていたけど、今のところ何もないですね。

ウェス:家の面積はそんなにないけど、すごく広く使えます。35坪ぐらいが、60坪ぐらいに使えるっていう魔法の家ですね!