ホーム > お客様の声 > vol.28 Noting is everything - 外も中も、緩やかにつながる山里の家「ふじの・篠原の家」

vol.28

「ふじの・篠原の家」

Noting is everything
外も中も、緩やかにつながる山里の家

相模原市緑区(旧藤野町)/M様邸
2018年11月竣工 設計:池辺潤一

オーストラリアから日本の山里へ

家の名前にもなっている、篠原という山あいの集落の高台に建てられたM様邸。玄関を開けると、リビングとダイニング、キッチンが緩やかにつながる、広々した空間が現れます。最大で高さ5mという吹き抜けは、広々した空間にさらに開放感を与え、さらに南向きの大きな窓からは、「うわー!」と声が漏れてしまうほど美しい絶景が。書斎や寝室もすべて1階に配した平屋のようなつくりになっていますが、吹き抜けの高さを生かして1室だけつくられた2階部分は、まるで宙に浮いている箱のよう。1階から仰ぎ見ているだけで、なんだかワクワクしてしまいます。

20年近く、オーストラリアの大学に勤めていた大学教授のM様。日本へ帰国することが決まり、これを機に終の住処を建てようと、日本で土地を探すことになりました。登山が趣味だったM様は、どうせなら山が近い場所に住みたいと考え、新たな職場となる大学までの通勤範囲内の山里を探し、たまたま藤野を知りました。

日本に一時帰国した際、ハイキングついでに地域のイベントに参加して話を聞いたり、観光協会の方にまちを案内していただくなかで「ここは面白い」と思ったというM様。後日、「めったに出ない土地が出た」と観光協会から連絡をもらった際に、偶然にも諸用で帰国していたM様は、翌日には土地を見に行き、その場で購入を決意しました。オーストラリアにいる奥様にはビデオを送って相談したそうです。

奥様:「だから私は、ビデオで見ただけで土地を買うことを決めたんです(笑)。藤野にきたこともなかったんですよ。よくそれで決めましたねってみんなに言われるんですけど、逆に見ていたら、迷ってしまってすぐには決められなかったかもしれませんね」

始まりは、イメージを共有すること

日本で家を建てるなら、やっぱり木の家がいい、と考えたM様は、土地を購入した縁もあり、創和建設に建築をお願いすることにしました。購入時、この土地には古い農家住宅が建っていましたが、屋根裏を見てみると、立派な梁がいくつもあります。

M様:「これを使わない手はないということで、創和さんに相談したところ、どれをどう残すのかを決めるには建築家に見てもらわないといけないと言われました。そこで紹介していただいたのが池辺さんでした」

一方で、親戚に建築士がいたというM様は、家づくりの進め方について相談したそうです。すると「具体的な間取りとかじゃなく、イメージを共有するコンセプトマップをつくったらいいよ」とアドバイスをもらいました。そこで、A4用紙1枚に自分たちなりのイメージをまとめ、池辺さんに託しました。

M様:「オーストラリアでは家を建てる機会を逸していましたが、吹き抜けの天井がよいとか、リビングからテラス、そこから景色のよい庭に繋がるような家がよいとか、漠然とした夢は持っていました。そこで、池辺さんに僕らの“ざくっとした”イメージをお伝えしたんです。それを受けてつくってくださったファーストプランをみて、これは夢が実現するかもしれないと思いました」

じつは、最初に出てきた設計案から、大枠はほとんど変えていないそう。もちろん、細かい部分は変更したり、要望をいって考え直してもらったこともあったそうですが、何度も話し合いを重ねていくうちに、不思議と「当初の池辺案に戻る」ということが起こり始めたのだそうです。

打ち合わせはスカイプで

ちなみに、設計を開始した時点ではまだオーストラリアに住んでいたため、打ち合わせはPDFのやりとりとスカイプで行ないました。最初はお互い「大丈夫かな」という不安もなくはなかったとのことですが、コミュニケーションは問題なく取れ、信頼関係はしっかり形成されていきました。

M様:「池辺さんには、僕らの希望を丁寧に聞いていただきました。僕らも、池辺さんのお考えをよく伺って案を修正していった。そういうキャッチボールをするうちに、この人なら夢を実現してくれるにちがいないという確信が深まりました」

池辺:「Mさんの考え方と僕の考え方はすごく似ているんです。理由をちゃんと説明をすればわかってもらえて、判断してくれる。たとえば、僕の中の理想的な家は、ワンフロアで、薪ストーブを中心に食事するところもくつろぐところも集まるところも、寝室も水回りも外も、すべての関係がゆるやかにつながっている家なんですね。それが理想なんだけど、施主さんの要望もあるし、コンパクトな敷地では物理的に難しいことも多いんです。そういう意味で、最初に提案したプランで受け入れてもらったときは「よし!」って思いました。これができるお施主さんや広い土地ってなかなかないんですよね」

この広さがあれば、2階にもう1部屋か2部屋つくることも十分可能だったそう。しかし、こうした池辺さんの考えもあり、あえて部屋数は増やしませんでした。

M様:「空間の無駄っていう言い方もできるかもしれませんね。でも僕はゆるやかにつながった、この広い空間が気に入っています。“Noting is everything”っていう感じです」

何もないからすべてがある。何もないからこそ得られる居心地の良さがある。それを、M様邸は体現しているのです。

現場のコーディネーションに感動

日本に帰国後、着工すると週に1度は現場に足を運ぶようにしていたというM様。そして、現場監督や職人さん、設計士が協力しあって家をつくりあげていく様子に、感動したそう。

M様:「あのレベルのコーディネーションは、オーストラリアではまず夢みたいな話なんです。現場監督の岡部さんと大工の平野さんの力強いコンビを中心として、到底ありえない、職人さんのすばらしい協力関係のなかで、夢が少しづつ実現するのを見るのは本当にうれしかったです。日本に帰ってきて家建ててよかったと心から思います」

新築の家はほとんどない集落で、その土地に建っていた家の材も活用し、地域にもゆるやかにつながる家が生まれました。「家だけでなく、私たちも本当の意味でこの土地に馴染んで暮らしていきたい」とM様。日本での新たな暮らしが、新たな家とともに、始まりました。