ホーム > お客様の声 > vol.22 まちをつくるように家をつくる山梨の木が多くのご縁を繋いだ「結びの家」

vol.22

「結(むすび)の家」

まちをつくるように家をつくる
山梨の木が多くのご縁を繋いだ家

山梨県都留市/櫻場様邸

今回は、またまた特別編! 完成したばかりの山梨県都留市・櫻場様邸に、櫻場様ご夫妻のほか、設計士の池辺潤一さん、北都留森林組合の中田無双さん、甲斐東部プレカット工場の小俣吉仁さん、大工棟梁の平野さんにお集まりいただき、創和建設・代表取締役の志村敏夫も交えて、座談会を開催しました。

じつは櫻場様邸は100%山梨県産材を使った家。この実現にはさまざまな方のご協力が必要不可欠でした。多くの人を繋いだ家づくりのさまざまなエピソードを伺います!


 

存在感抜群のイエルカの薪ストーブ

自由でこだわり満載の自然住宅が誕生

まずは家のご紹介から。

玄関を入ると、目に飛び込むのが枝が伸びた樹形そのままのシンボル柱とその柱をぐるりと囲むように置かれた丸いベンチです。まるで、家の中に木が生えているよう。土間になった広いダイニングキッチンと無垢床のリビングルームのちょうど境目には、イエルカの薪ストーブが置かれ、家中を瞬く間に暖めてくれました。

2階に上がると吹き抜けを囲むようにスペースが配置されています。寝室はわずかに部屋らしい空間になっていますが、扉はなく、すべてがゆるやかに繋がっています。なんと2階は、トイレすら、カーテンだけで扉がありません。

櫻場邸では地熱床システムのほか、太陽熱温水器や藤野電力のオフグリッドソーラーシステムを採用。照明6ヶ所とコンセント7ヶ所がこのオフグリッドシステムからの供給によるものです。木材は100%山梨県産材、ベンチやダイニングキッチンのカウンターは、お隣、上野原市で地元産の無垢材にこだわる家具工房Studio Y.E'Sに依頼しました。照明には藤野地域に縁のある鉄作家さんの作品を採用したりと、地産地消にはとことんこだわっています。

環境にしっかり配慮され、おまけに間取りもかなり独特な櫻場邸。ところがじつは、某大手ハウスメーカーで家を建てるつもりで、仮契約も済ませていたというのです。

それまで「木の家を建てたい」という漠然としたイメージだけはあったものの、自然住宅にも、ましてや環境問題、まちづくりにもほとんど興味がなかったという櫻場様。いったいなぜ、ここまでこだわりの詰まった自然住宅を建てるに至ったのでしょうか。お話は創和建設との出会いから始まりました。

創和建設との出会いが価値観を変えるきっかけに


 

枝がついたままのシンボル柱とそれを囲むように設置されたドーナツ状のベンチ。奥には藤野電力のバッテリー置場も見えます

奥様:高気密高断熱が売りの某ハウスメーカーでほぼ決めかけていたんですけど、なんかこうしっくりこない感じはあったんですよね。実際に住んでる家を見せてもらったんですけど、みんな言うんです。窓を開けないで住むのがいちばん空気がきれいだって。田舎に住みたいと思っているのに、なんで窓を開けない生活を? って思って。

櫻場:僕も何か違うと思っていて、試しに創和さんに行ったんです。

奥様:そしたらその日に社長に連れ出されてね(笑)。

全員笑

櫻場:そう。その場ですぐ藤野の家巡りをしていただいて。その中で、犬を飼っているお宅を見せてもらったんです。

奥様:そのお宅は風がビュッと抜けるんです。それがもう気もちよくって、家はやっぱりこうだよねってひとめぼれして、そこからですね。それまでは、彼が変えたいって言っても私は頑に規格の家でいくんだって言ってました(笑)。

—もともと自然住宅がいいな、というのはあったんですか?

櫻場:じつはなかった…。

全員笑

志村:ただ、その(自然住宅に向かう)上がり方がすごかったですよね。

櫻場:藤野を案内していただいてから、藤野のことに興味が沸いていろいろ調べたんです。それまでは、自然素材とか環境問題とか、興味がないって言ったらあれですけど、恥ずかしながら知らなかったですね。でも藤野を調べたら、みんな面白い活動してるじゃないですか。地球のことや子どもの将来を考えて暮らしている人たちがこんなにいるんだっていうのを知って、一気にいった感じです。

—ちょっと大げさかもしれないですけど、家を建てたことで人生変わっちゃったんですね。

櫻場:ああ、でも本当にそうです。価値観が完全に変わりました。

「家を建てる」じゃなくて「まちをつくる」?

—こんな家にしたいっていう具体的なイメージはあったんですか。

櫻場:いや、建売に流れてたぐらいなんで、何も考えてなかったです(笑)。ただ、いろんな家を見せてもらったときに、志村さんが、「家を建てる」じゃなくて「まちをつくる」って言ったんですよ。大手ハウスメーカーは家を建てたらおしまいですよね。でも「まちをつくってるんだ」って言われたときにそこがもう決定的に違うと思いました。

奥様:繋がり方が全然違うよね。

櫻場:そう。地域の雰囲気をつくってるんだっていうところがすごくすてきで。だから僕らも、家の中のイメージっていうより、周りとどう調和する家になるかっていうことに、重きを置いていた気がします。たとえば隣が彼女の実家なんですけど、雰囲気を合わせて、赤い屋根にしたんです。彼女は小さい頃から実家の赤い屋根が好きだったみたいで。

—目を引きますよね。遠くからでも、あそこだ!ってすぐわかりました。

奥様:学校から帰ってくるときに、赤い屋根が目印だったんです。この地域は、小学校まで歩いて30分近くかかるんですよ。昔は山に1本高い木があって、あそこを目指して歩いて、近くまできたらうちの赤い屋根が見えるとか、そういう思い出があったので。

土地がある分、いい家をつくってもらいたい

櫻場:でも最初は興味をもった藤野周辺に住みたくて、土地も、相模湖・藤野近辺で探していました。

志村:それで土地探しが始まったんですけど、奥様のご実家の隣に建てることになりました。

池辺:その説得から始まりましたよね(笑)。

志村:そう。だって、せっかく土地があるのにもったいないし、だったら土地がある分、いい家をつくってもらえればなぁっていうふうに思って。で、すごくアクティブな方だってお話してるとわかるので、設計は池辺さんが面白いだろうと思ってお繋ぎしました。

池辺:最初からガンガン質問がきてたので、相当アクティブに家づくりをやる気だなと思いました。だから僕のほうも結構グイグイ、いろいろなプランをもっていきましたね。地元の木を使うとかエネルギーに対する考え方とかはすごくはっきりしてて、あとはどれだけ家づくりに関わって楽しめるのかっていうことに興味をもたれていたので、どんどん巻き込んでいきました。

施主さんが種を植え、成長するように建物ができる

—池辺さんの設計は独特なところがありますよね。大工さん的にはやっぱり池辺さんの設計した家を建てるのは大変なんですか?

大工:まぁ大変といえば大変ですね。最初にびっくりしたのは、枝が飛び出たままの柱ですよね。どうやってつくるんだろうと思いました。

—あの枝付きの柱には何かこだわりがあったんですか?

櫻場:枝付きは、最初は池辺さんの発案なんです。たぶん、私があのベンチを提案して、そこから派生して、ベンチの上にこういう自然樹形があったらいいんじゃない?って。

池辺:その頃ちょうど考えてたのが、施主さんが種を植えてそこから芽が出る、要するに成長するように建物ができるんだっていうことで。建主の意志があって、サポートする我々が肥料をあげたり、水をあげたりすることで家ができる。そうやってできていくのが理想だなって思ってたので、それをなるべく自然な形で表現したいなと。種を植えて、にょきにょきと木が生えてきて、その周りにベンチがあって、そこに家族が座ることからここの暮らしが始まる。その象徴として、あのシンボル柱を考えました。

—シンボル柱の木はご自分で伐られたんですよね。

櫻場:そうなんです。しかもチェーンソーじゃなくのこぎりで。苦労して伐ったほうがいいということで(笑)。

志村:それは、北都留森林組合の中田さんの存在がなかったらできてなかったですね。山を紹介してくださって、しかも安全に伐れるようサポートしてくださったんです。

20年やってますけど、初めてです(笑)

中田:森林組合は、山の木を育てるのが仕事です。で、伐ったものは市場へ持っていって売ってもらいます。だから普段、顔の見える関係性ってほとんどないんです。自分たちが育てた木を誰が買って、どこでどういうふうに使われているかって全然わからないんですね。今回、志村さんから「施主さんが自分で伐った木で家を建てたいって言ってるから協力して!」って言われたときは正直「え!?」って思いました(笑)。でも、面白い話じゃないですか。こんなことは今までなかったものですから、ぜひ協力させてくださいとお返事しました。で、櫻場さんに小菅村の山まできていただいて、木を伐ってもらいました。それを「甲斐東部材プレカット協同組合」という市場へ届けさせていただきました。

志村:小俣さんは最初結構ネガティブだったの。

小俣:いやいや(笑)。だって普通ありえないでしょ!

全員笑

小俣:最初、工場のほうで図面を見て、そういう木が工場の中にきますよっていう話をいただいたときは、ああ、そういうお施主さんもいらっしゃるんだと驚いていました。正直、本当にやられるとは思いませんでしたし、ものがきてようやく、「あ、本気なんだ」と(笑)。ただ、みなさんの熱い思いが池辺さんの絵に乗っかって私のところまできましたから、これはうちのほうでもしっかり材質管理をしていこうっていうことで。工場のみんなに、こういうコンセプトで、こういうことを考えてるお施主さんだからという話をして、きっちり取り組ませてもらいました。その中でもいちばん思い出深いのはやっぱりシンボル柱になってるあの枝付きの柱ですね。お施主さん自ら工場にきてきれいに仕上げたんですけど、そんなこと、ほぼないんですよ。っていうか、20年やってますけど、初めてです(笑)」

全員笑

小俣:2週間、3週間ペースで連絡をいただいて。「どんな感じですか、今」「ちょっとカビがきましたね」「じゃあきれいに仕上げに行きます」と。で、また2、3週間したらご連絡いただいて、いらっしゃって。そういうやりとりをさせてもらいながら、最終的に加工までやって現場のほうに届けさせていただきました。今日、完成した家を見させてもらいましたが、やっぱり雰囲気がすごくいいですね。しかもすべて山梨の木を使っていただいている、こんなに嬉しいことはないです。工場全体で、本当に楽しませていただきました。

—普段、山梨の家を山梨の木で建てることってあんまりないんですか。

小俣:なくはないですけど、本当に数%ですね。

志村:この住宅は100%ですもんね。すごく珍しいと思います。


 

自由な家なのに、長期優良住宅の基準もクリア

池辺:大工さんもかなり大変だったと思います。僕が自分で模型をつくってて「あれ? ここどうなってんだ」ってなってたプランだから(笑)。

全員笑

大工:大変は大変でしたよね。ちょっと…やっぱり考えましたよね。

全員笑

大工:でも施主さんがずっといましたから。あの枝付きの柱の向きとか枝の高さもね、相談しながら決めていきました。

志村:大工さんふたり入って何ヶ月ぐらいかかりましたっけ。

大工:正味2ヶ月半ぐらいですかね。

志村:ですよね。このサイズだと仕上がるまでで2ヶ月で終わるはずなんですよ。大工さんがそれだけかかかるってことはやっぱりすごく大変っていうことで。

池辺:ねえ。45度ぶつけちゃったりいろんなことやってるので。こういうプランだと、現場で初めて「あ、そうだよね。ここ、こうなっちゃうよね」とかありますね。

櫻場:結構ありましたよね(笑)。

池辺:はい(笑)。だから現場で大工さんと相談しながら一緒につくっていきました。

志村:あと、絶対的にすごいのが、この自由な間取りで長期優良住宅の基準をクリアしてること。これを自然素材でクリアできたっていうのはものすごいことですよ。

—あんまりないんですか。

志村:あんまりないですね。絶対無理だって言われていて、最初はすっごく揉めました。でもみなさん、頑張ってくださったんですよ。

中田:チームなんで(笑)。

—はい。みなさん仲良しで、なんだかすごくチーム感がありますね。

いろいろな人が、家をつくることで手を結んだ

志村:創和建設としても、山梨の木を使った家づくりはこれからもどんどんやっていきたいと思っています。その理由っていうのは、こうやって協力してくれる方々が現れたからで。

全員笑

志村:これからも一緒にやりたいなぁと。

池辺:この家の名前って「結(むすび)の家」なんですよね。いろいろな人が、家をつくることで手を結んだっていうのが実際に家づくりの中で起こったんだなぁと思います。

奥様:この間、買い物してて工場の人に会ったんですよ。

小俣:あ、そうなんですか(笑)。近くに何人か住んでるんですよね。

奥様:それで「棟上げしたねー」とか声をかけていただいて、なんだかそれが嬉しくて。

櫻場:顔が見えないと、お金で買ってそれで終わりですよね。でも、その先にいる人が見えているので、そのあとも付き合えるような関係も生まれたし、有機的な家ができたんだと思います。

お子さんも早くもこのベンチが気に入った様子。

ダイニングキッチンは玄関から庭まで抜けられる通り土間になっています。地熱床システムのおかげで底冷えはまったくありません。木目が美しいカウンターは家具工房Studio Y.E'Sの作品、ペンダントライトは鉄作家の羽生直記さんの作品です。

2階は吹き抜けの周りを取り囲むような造りになっています。四角いはずの家なのに、動線が円を描くので、たまに自分がどちらを向いているのかわからなくなるそう(笑)