ホーム > お客様の声 > vol.32 人生のために、家がある。自然住宅の建築設計士がつくった自邸「愛川の家」
vol.32
「愛川の家」
人生のために、家がある
自然住宅の建築設計士がつくった自邸
神奈川県愛川町/いちかわ様邸
創和建設でも毎年、数多くの自然住宅の設計をお願いしている建築設計士・いちかわつくみさん。丁寧な打ち合わせとヒアリング、細部まできっちり考えられた設計は、多くの施主さんの信頼を得ており、大人気です。そんないちかわさんが自ら設計し、創和建設の施工で自邸を建築されました。設計士の自邸って、ちょっと気になりますよね。いったいどんな家なのでしょうか。
美しい風景も設計の一部に
愛川町の市街地を抜けると、突然、一面に田んぼが広がる絶景が。その一角に建つのが、自然住宅の建築設計士・いちかわつくみさんの自邸です。あまりに風景に馴染みすぎて、最初はどこにあるのか気づかなかったほど。すでにしっくりと、風景の一部と化しているのです。
「この土地でいちばん気に入ったのは、やはり目の前の風景です。なので、この風景がよく見えるように暮らしたいなと思いました」
1階はリビングと水回り、離れのような形で仕事場を。せっかくの風景を楽しめるよう、テラスは広めにとりました。窓を開けると吹き抜けのリビングと一体になって空間に広がりが生まれます。2階は子ども部屋と寝室のみ。高い位置に配した横長の窓からは、借景の田んぼが美しい絵のように収まっています。エネルギー関係では、太陽熱温水器や薪ストーブを導入し、もともとあった井戸も活用しています。すぐ近くを川が流れているので、夏でも涼しい風が入ってくるそう。
建坪はわずか約33坪。けっして広くはありません。ところが外から見ると、けっして小さな家には見えませんし、中に入っても、すぐにはその小ささに気づきません。
「予算のこともあるし、子どもはいつか出て行ってしまいますから、あまり大きな家にはしたくないと思っていました。それに、せっかくの美しい風景に大きな2階建てがポーンと建っていたら変だなと思ったんですよね。もともとここに建っていた平家のイメージもあったので、風景に馴染むよう、昔の茅葺き屋根みたいな大きな屋根にして、建物自体はコンパクトにしました」
土地との調和を図り、シンプルですっきりした設計にすることで、家、土地、風景がつながり、不思議な広がりを生み出しているのです。
変化してきた設計の「今」を切り取った家
長年、自然住宅の設計に携わるいちかわさんですが、その設計は、年を追うごとに変化してきていると言います。
「僕のつくる家は、昔はもっと原理原則に忠実で、大工さんがつくる家に近かったんです。そこから変わってきた部分と今も残っている部分とがあります。昔だったら、階段の壁にも竹格子を入れていたと思いますね。でも、そういう細かいことはしなくなりました。創和の志村社長が、真面目な設計はつまらないって言うので(笑)。真ん中に大黒柱を建てて、田舎によくある田の字型のプランに近くなるところは、昔の影響が残っているんだろうなと思います」
大事なことは譲らず、どちらでもいいことや必要のないものは削いでいく。そこで生まれたゆとりが、空間をゆったりしたものにさせているのかもしれません。
なぜ、創和建設に施工を依頼したのか
仕事柄、いちかわさんはさまざまな自然住宅系の工務店とお付き合いがあります。今回はなぜ、自邸の建築を創和建設に依頼したのでしょうか。取材に同席した志村社長がひとこと「安いからでしょ(笑)?」と突っ込みます。
「あははは(笑)。えーと、はい。それは、もちろんあります(笑)。でもそれだけじゃないですよ。自然住宅って手間をかけようと思えばいくらでもかけられるし、こだわりが強い工務店が多いんです。でも創和建設は、自然住宅の基本はしっかり押さえつつも、いい意味で柔軟で振り幅が広い。やったことがないことでも、やってみたいと言えばいろいろ検討してやってくれますし、もともと自然住宅ではない住宅の施工に関わっていた人もいて、僕では絶対に思いつかないようなアイデアを持っていたりするんです。それは面白いし、ありがたいですよね」
柔軟に対応でき、対等に言い合える関係性が家づくりをより良いものにする。こうした信頼関係もまた、家づくりでは大切なことです。また、セルフビルドに積極的なことも、決め手のひとつだったそう。
「せっかく自分の家を建てるんだったら、自分でできることは自分でやりたいと思っていました。ウッドデッキの塗装や床下の防腐防蟻作業は自分たちでやらせてもらいましたね」
好きなようにつくれると思ったら「欲が出なかった」
仕事で手がける設計と違い、今回は自邸の家づくりです。なんでも好きなようにつくることができ、こだわろうと思えばいくらでもこだわることができます。やはり、力が入ったのではないでしょうか。
「そうですね。基本的にやりたいことは全部入れました。ただ、実際やってみたら、思ったより“欲が出なかった”んですよね」
長年、自然住宅の設計に携わり、いよいよ自邸を建てようというときに、欲が出ずにシンプルになったというのは興味深い話です。
「家を建てるときって、力が入って、あれもやりたい、これもやりたいってなりがちですよね。でも、よくよく考えたら、夫婦や家族で楽しく暮らせる期間は決まっています。僕らなら、せいぜいあと30年ぐらいでしょうか。設計士がこんなこと言ったらいけないのかもしれないですけど、だったら家にたくさんお金をかけるより、その時間を大切にして、ほかのことを楽しんだほうがいいのかなと思うんです。そのために家があると思ったほうがいいんじゃないかなと。じつは建築中に、子どもに『この家あんまり広くないね』って言われたんです。じつは僕も思っていて、さすがに小さくしすぎたかな、失敗したかなと思ったんです(笑)。でもできあがって、養生や足場が全部外れたら『ああ、このぐらいがちょうどいいな』と思いました。実際暮らしていてもそう思います。家って、そのぐらいでいいんじゃないかと思うんですよね」
長年、自然住宅の設計に携わってきたいちかわさんがたどり着いた現在地。それは基本の知識や技術は生かしつつも、シンプルで自由な家のあり方でした。暮らしのために、人生のために、家がある。今のいちかわさんの設計の魅力が、この家には詰まっています。
「今の私の設計ということで、お客さんに見せられるものができたなと思います。たとえば空間の抜け感って大切なんですけど、口で説明してもなかなか伝わらないんですよね。これからは、この家を見てもらえばいいんだって思っています」
百聞は一見に如かず。いちかわさんの設計が気になる方は、ぜひ1度、伺うことをお勧めします!
創和建設 代表 志村敏夫
「建築家の自邸を頼まれることは、ありがたいという感謝の気持ち以外にも私たちは凄く楽しみで、設計図面が上がってきたとき、そして工事中から完成まで現場を眺めながら感じたことがあります。いくら建築家でも、自邸であることは一般の方と変わらないので、これもやりたいあれもしたいと、どんどん細かくなっていくのかなと想像していたところ、どちらかというとお客様の住宅設計に比べて簡素というか素朴な雰囲気が広がっていて、そしてこの抜け感たっぷりな空間でしょ。ご自身とご家族の大切な所だけををしっかり残して、それ以外は上手に捨てていった結果なのかな?この、捨てるということを潔く出来ないと、建築家にはなれないのかと理解できた現場でした。そして心に誓ったことが一つ、これから先も、自分で設計をするなど余計なことは考えずに、一生懸命施工者として企画者として生きていこうと再認識をした“愛川の家”、上手く捨てることって、才能なんですね」