ホーム > お客様の声 > vol.33 自分でつくることで暮らしも変わる。余白たっぷりなのに、理想が形になった家「手と心が動く家」

vol.33

「手と心が動く家」

自分でつくることで暮らしも変わる
余白たっぷりなのに、
理想が形になった家

相模原市緑区/N様邸
2019年2月竣工 設計:池辺潤一

高台の絶景に建つ家

相模原市緑区・藤野地区の高台。入り組んだ路地を入っていって車を降りた瞬間、思わず「うわー!」と声をあげてしまいました。屋根とウッドデッキでつながる母屋と離れの間から、向こう側の山々がちょうど正面に見えるのです。まるで切り取られた1枚の絵のよう。その間を抜けると絵に収まっていた風景は一面に広がり、まさに絶景に。路地のアプローチからは想像もできない景色が広がります。

まるで翼を広げるようにくの字型に曲がり、離れもあるという変わった造りのN様邸。全体の建坪は35坪、暮らしのスペースとなる正面の母屋は25坪ほどとコンパクト。しかし、開放感のある間取りと抜けのある土地の要素も相まって、狭さはほとんど感じられません。敷地手前に伸びるくの字の反対部分には、彫刻家のご主人と陶芸家の奥様のそれぞれのアトリエがしつらえてあります。

また、N様は外壁塗装や内部の漆喰塗り、キッチンの造作など、かなりの部分をご夫婦でセルフビルドしました。部屋の中の家具や建具もほとんどはご主人の手づくり。言われなければセルフビルドとはわからない丁寧な仕上がりは、さすが芸術家のご夫婦です。「手と心が動く家」と命名されたN様邸は、文字どおり、思わず手も心も動かされてしまう家なのです。

理想のプランを建築家がさらに磨く

東京都日野市にご実家があり、最初はその近辺で家を建てるか、中古住宅を購入して自分たちでリノベーションしようと考えていたというN様。しかし、なかなかピンとくる物件には出会えませんでした。そのうち子育て環境と自分たちの制作環境を考えたら、もっと自然の多い場所のほうがいいのではないかと思うようになります。そして藤野在住の知人経由でたまたま紹介してもらったのが、この土地だったそうです。

奥様「この景色を見た瞬間に“ここじゃない?”“ここだね”って。ふたりともビビッときちゃいましたね」

そこからはトントン拍子。土地の地目変更でお世話になった創和建設に、そのまま家づくりもお願いすることになりました。建築家は、これも知人からつなげてもらった池辺潤一さんにお願いすることに。

自然住宅にはそれほどこだわりはなかったというN様。ただしご主人は木工が趣味で「自分で家をつくってみたい」という気持ちがとても強かったそうです。しかし調べれば調べるほど、全部を自力で建てるのは技術的にも時間的にも難しそうだと感じ、断念していました。

奥様「彼は自分で全部つくりたかったぐらいなので、アトリエはこうで母屋がこんな感じでっていう理想のプランをもっていました。池辺さんはそれをすごく面白がってくれたんですね。だから建築家と自分たちとで協働していいものをつくるっていうところをベースに奮闘していった感じです」

池辺「Nさんはそもそもアーティストで、空間のイメージがきちんとできていました。それにこの土地を見たら、誰だってちょっとテンション上がっちゃうでしょう。だから別に僕が頑張らなくても、きっと面白いものができるだろうなと思っていました。なので、どっちかというと僕の余計なものは入れないっていう感覚のほうが強かったです。僕はNさんがもっているイメージを導き出して、自分のイメージや建築家としての知識とすりあわせてそれを具現化していく。もちろん味つけはいろいろするけれども、基本的にはNさんのイメージに乗っかる感じでした。そうしたら僕もどんどん気持ちが乗ってきて、アイデアが出てきて、あっというまに出来上がりましたね」

N様「正直、僕は池辺さんの中で最初に出てくるアイデアの邪魔になっちゃいけないと思ったので、かなり自分を抑えて希望を伝えていました。それでも相当言ったと思うんですけどね(笑)。だいたいの形とかアトリエの使い方、あとは景色がいいとか、軒に作品を置きたいとか、そういうキーワードだけは伝えて。そうしたら、離れと母屋の間の抜けてる空間がぼーんと出てきて“うおーさすがだな!”と思いましたね」

N様のもっていたイメージとそれに触発された池辺さんのアイデアが組み合わさった家は、まさに独創的。大工さんからは、くの字型に曲がった設計を前に「こんなのは絶対にくっつかない。無理だ!」とまで言われ、社長や現場監督が説得してやってもらった場面もあったそう(結果、ぴったりきれいにつくってくれました)。アイデア豊かな建築家と、理解がありそれを面白がれる工務店と施主、腕のいい大工がいなければ成り立たない家づくりでした。

本格セルフビルドも夫婦で楽しみながら

そしてN様邸の最大の特徴は、なんといってもかなりの部分をセルフビルドで仕上げたこと。特に圧巻なのは、ご主人自作のキッチンです。家全部をつくるのは無理でも、せめて1箇所ぐらいは自分でつくりたいと思ったご主人が「ここならできそう」と思ったのがキッチンだったそうです。これがセルフビルドだとは、誰も思わないでしょう。

また、漆喰塗りや外壁塗装は奥様も一緒に作業しました。平日は仕事に行くご主人から、昼休みに進捗状況を確認する電話がしょっちゅうかかってきたそうです。

N様「それこそ、創和さんのじゃなくて“うちの”工程表がありました(笑)」

奥様「朝いちで“今日はここからここまでね”っていう確認があって、昼休みに“進捗どう?”って電話がかかってきて(笑)。パテ打ちに意外と時間がかかって、保育園のお迎えも早いからちょっと無理かも、っていうと“ああ、そうなんだ…”ってがっかりされましたね(笑)。でも、そういうのが楽しいふたりなので」

N様「外壁用の板を塗装するときも、一束12枚(1畳分)を何分で塗れるか競争したりしていました(笑)」

実際は思った以上に大変で、養生や下地塗りなど、地味で退屈な作業もあったそうです。でもそれを夫婦で力を合わせて、楽しみながらやってしまうのがN様のすごいところ。それでも後半はだんだん時間がなくなり、平日の出勤前や夜、帰宅してからも作業しました。これはなかなかの労力です。

N様「でも、やっぱりやってよかったなと思います。やってみないとわからないことってあるんですよね。壁塗りだって下地がこんなに大変なんだっていうことはやらないとわからなかったですし、少しでも自分たちの手で家をつくることで、大事に使うとかそういうことを含めて“つくる責任”を感じられたように思います。自分でつくることによって暮らしは変わっていく。そういう体験がないのとあるのとでは、暮らしにすごく差があるんじゃないのかなと」

余白のある家、だから楽しみ

今後はまだ手つかずの外構を手がけていきたいとN様。畑や花壇をつくり、果樹も植えたいと考えているそう。また、家に合わせた家具もこれからどんどんつくっていく予定。余った建材でとりあえずつくったローテーブルも、いい材を見つけたら「きちんとつくり直したい」そうです。実際に暮らし始めたことでイメージが沸き、やりたいこともどんどん出てきて、なかなか作業が追いついていかないと話します。

奥様「そういう意味では池辺さんが余白をいっぱいつくってくれたように感じています。それを創和さんが形にしてくれたと思います。住んでみないとわからなかったこともいっぱいありましたし、ちょっとずつつくりながら、これからも良くしていけるような感覚があるっていうのはとっても楽しみですね」

"創和建設の家づくり"

余白があることで手が動く。手を動かし「自分でできるかもしれない」と思えるようになることで、暮らし方が変わる。ものづくりをしているN様ご夫婦ならではの家づくりではありますが、その気持ちをもつことは、きっと誰にとっても家づくりとその先の暮らしの可能性をさらに広げてくれるのではないでしょうか。まだまだ変化していきそうなN様邸。その移り変わりを見るのもとても楽しみでなりません。